。なまけ者ならば知らぬ事、まじめな本気な百姓などの秋といったら、それは随分と忙しいはげしいものである。
のらくらしていては女にまで軽蔑される。恋も金も働きものでなくては得られない。一家にしても、その家に一人の不精ものがあれば、そのためにほとんど家庭の平和を破るのである。そのかわりに、一家手ぞろいで働くという時などには随分はげしき労働も見るほどに苦しいものではない。朝夕忙しく、水門《みなと》が白むと共に起き、三つ星の西に傾くまで働けばもちろん骨も折れるけれど、そのうちにまた言われない楽しみも多いのである。
各《おのおの》好き好きな話はもちろん、唄もうたえばしゃれもいう。うわさの恋や真《まこと》の恋や、家の内ではさすがに多少の遠慮もあるが、外で働いてる時には遠慮も憚《はばか》りもいらない。時には三丁と四丁の隔たりはあっても同じ田畝に、思いあっている人の姿を互いに遠くに見ながら働いている時など、よそ目にはわからぬ愉快に日を暮らし、骨の折れる仕事も苦しくは覚えぬのである。まして憎からぬ人と肩肘《かたひじ》並べて働けば少しも仕事に苦しみはない。よし色恋の感情は別としても、家《うち》じゅう気を
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