であったのでしょう。私はもう諦めました。どうぞこの上お母さんも諦めて下さい。明日の朝は夜があけたら直ぐ市川へ参ります」
母はなお詞を次いで、
「なるほど何もかもこうなる運命かも知らねど今度という今度私はよくよく後悔しました。俗に親馬鹿という事があるが、その親馬鹿が飛んでもない悪いことをした。親がいつまでも物の解ったつもりで居るが、大へんな間違いであった。自分は阿弥陀《あみだ》様におすがり申して救うて頂く外に助かる道はない。政夫や、お前は体を大事にしてくれ。思えば民子はなが年の間にもついぞ私にさからったことはなかった、おとなしい児であっただけ、自分のした事が悔いられてならない、どうしても可哀相でたまらない。民子が今はの時の事もお前に話して聞かせたいけれど私にはとてもそれが出来ない」
などとまた声をくもらしてきた。もう話せば話すほど悲しくなるからとて強《し》いて一同寝ることにした。
母の手前兄夫婦の手前、泣くまいとこらえてようやくこらえていた僕は、自分の蚊帳《かや》へ這人り蒲団に倒れると、もうたまらなく一度にこみ上げてくる。口へは手拭を噛んで、涙を絞った。どれだけ涙が出たか、隣室の母
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