、民子と二人で茄子《なす》をとった畑が今は青々と菜がほきている。僕はしばらく立って何所《いずこ》を眺めるともなく、民子の俤を脳中にえがきつつ思いに沈んでいる。
「政夫さん、何をそんなに考えているの」
お増が出し抜けに後からそいって、近くへ寄ってきた。僕がよい加滅なことを一言二言いうと、お増はいきなり僕の手をとって、も少しこっちへきてここへ腰を掛けなさいまアと言いつつ、藁《わら》を積んである所へ自分も腰をかけて僕にも掛けさせた。
「政夫さん……お民さんはほんとに可哀相でしたよ。うちの姉さんたらほんとに意地曲りですからネ。何という根性の悪い人だか、私もはアここのうちに居るのは厭になってしまった。昨日政夫さんが来るのは解りきって居るのに、姉さんがいろんなことを云って、一昨日お民さんを市川へ帰したんですよ。待つ人があるだっぺとか逢いたい人が待ちどおかっぺとか、当こすりを云ってお民さんを泣かせたりしてネ、お母さんにも何でもいろいろなこと言ったらしい、とうとう一昨日お昼前に帰してしまったのでさ。政夫さんが一昨日きたら逢われたんですよ。政夫さん、私はお民さんが可哀相で可哀相でならないだよ。何だって
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