ろへきて、股引佩かないでもよい様にお母さんにそう云ってくれと云う。僕は民さんがそう云いなさいと云う。押問答をしている内に、母はききつけて笑いながら、
「民やは町場者《まちばもの》だから、股引佩くのは極りが悪いかい。私はまたお前が柔かい手足へ、茨《いばら》や薄《すすき》で傷をつけるが可哀相だから、そう云ったんだが、いやだと云うならお前のすきにするがよいさ」
それで民子は、例の襷《たすき》に前掛姿で麻裏草履という支度。二人が一斗笊|一個宛《ひとつずつ》を持ち、僕が別に番《ばん》ニョ片籠《かたかご》と天秤《てんびん》とを肩にして出掛ける。民子が跡から菅笠《すげがさ》を被《かむ》って出ると、母が笑声で呼びかける。
「民や、お前が菅笠を被って歩くと、ちょうど木の子が歩くようで見っともない。編笠がよかろう。新らしいのが一つあった筈だ」
稲刈連は出てしまって別に笑うものもなかったけれど、民子はあわてて菅笠を脱いで、顔を赤くしたらしかった。今度は編笠を被らずに手に持って、それじゃお母さんいってまいりますと挨拶して走って出た。
村のものらもかれこれいうと聞いてるので、二人揃うてゆくも人前恥かしく、
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