から言いだして当分二人は遠ざかる相談をした。
人間の心持というものは不思議なもの。二人が少しも隔意なき得心上の相談であったのだけれど、僕の方から言い出したばかりに、民子は妙に鬱《ふさ》ぎ込んで、まるで元気がなくなり、悄然《しょうぜん》としているのである。それを見ると僕もまたたまらなく気の毒になる。感情の一進一退はこんな風にもつれつつ危くなるのである。とにかく二人は表面だけは立派に遠ざかって四五日を経過した。
陰暦の九月十三日、今夜が豆の月だという日の朝、露霜が降りたと思うほどつめたい。その代り天気はきらきらしている。十五日がこの村の祭で明日は宵祭という訣故《わけゆえ》、野の仕事も今日一渡り極《きま》りをつけねばならぬ所から、家中手分けをして野へ出ることになった。それで甘露的恩命が僕等|両人《ふたり》に下ったのである。兄夫婦とお増と外に男一人とは中稲《なかて》の刈残りを是非刈って終《しま》わねばならぬ。民子は僕を手伝いとして山畑の棉《わた》を採ってくることになった。これはもとより母の指図で誰にも異議は云えない。
「マアあの二人を山の畑へ遣るッて、親というものよッぽどお目出たいものだ
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