心配でならなくなった。
「民さん、またお出《いで》よ、余り長く居ると人がつまらぬことを云うから」
民子も心持は同じだけれど、僕にもう行けと云われると妙にすねだす。
「あレあなたは先日何と云いました。人が何と云ったッてよいから遊びに来いと云いはしませんか。私はもう人に笑われてもかまいませんの」
困った事になった。二人の関係が密接するほど、人目を恐れてくる。人目を恐れる様になっては、もはや罪悪を犯しつつあるかの如く、心もおどおどするのであった。母は口でこそ、男も女も十五六になれば児供ではないと云っても、それは理窟の上のことで、心持ではまだまだ二人をまるで児供の様に思っているから、その後民子が僕の室《へや》へきて本を見たり話をしたりしているのを、直ぐ前を通りながら一向気に留める様子もない。この間の小言も実は嫂《あによめ》が言うから出たまでで、ほんとうに腹から出た小言ではない。母の方はそうであったけれど、兄や嫂やお増などは、盛に蔭言をいうて笑っていたらしく、村中の評判には、二つも年の多いのを嫁にする気かしらんなどと専《もっぱら》いうているとの話。それやこれやのことが薄々二人に知れたので、僕
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