作物もえいようでなど簡単な挨拶にも実意が見える、人間は本気になると、親身の者をなつかしがるものだ、此の調子なら利助もえい男だと思っておれも嬉しかった、お町は何か思いついたように夫に相談する、利助は黙々うなずいて、其のまま背戸山へ出て往った様だった、お町はにこにこしながら、伯父さん腹がすいたでしょうが、少し待って下さい、一寸思いついた御馳走をするからって、何か手早に竈《かまど》に火を入れる、おれの近くへ石臼《いしうす》を持出し話しながら、白粉《しろこ》を挽《ひ》き始める、手軽気軽で、億劫な風など毛程も見せない、おれも訳なしに話に釣り込まれた。
「利助どんも大分に評判がえいからおれもすっかり安心してるよ、もう狂《あば》れ出すような事あんめいね」
「そうですよ伯父さん、わたしも一頃は余程迷ったから、伯父さんに心配させましたが、去年の春頃から大へん真面目になりましてね、今年などは身上《しんしょう》もちっとは残りそうですよ、金で残らなくてもあの、小牛二つ育てあげればって、此節は伯父さん、一朝に二かつぎ位草を刈りますよ、今の了簡《りょうけん》でいってくれればえいと思いますがね」
「実の処おれは、そ
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