りくと足の下がぎしぎし鳴る位だ、お町はやがて自分も着物を着替て改った挨拶などする、十になる児の母だけれど、町公町公と云ったのもまだつい此間の事のようで、其大人ぶった挨拶が可笑しい位だった、其内利助も朝草を山程刈って帰ってきた、さっぱりとした麻の葉の座蒲団を影の映るような、カラ縁に敷いて、えい心持ったらなかった、伯父さん鎌を六丁買ってきて、家でばっかそんなにいるかいちもんだから、おれがこれこれだと話すと、そんなら一丁家へもおくんなさいなという、改まって挨拶するかと思うと、あとから直ぐ甘えたことをいう、そうされると又妙に憎くないものだよ。
あの気転だから、話をしながら茶を拵《こしら》える、用をやりながらも遠くから話しかける。
「ねい伯父さん何か上げたくもあり、そばに居て話したくもありで、何だか自分が自分でないようだ、蕎麦《そば》饂飩《うどん》でもねいし、鰌《どじょう》の卵とじ位ではと思っても、ほんに伯父さん何にも上げるもんがねいです」
「何にもいらねいっち事よ、朝っぱら不意に来た客に何がいるかい」
そういう所へ利助もきて挨拶した、よくまア伯父さん寄てくれました、今年は雨都合もよくて大分
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