いが、愈※[#二の字点、面区点番号1−2−22、212−4]捕へられて獄中の人となつて終へば、氣も安く心も暢びて、愉快に熟睡されると聞くが、自分の今夜の状態はそれに等しいのであるか、將來の事は未だ考へる餘裕も無い、煩悶苦惱決せんとして決し得なかつた問題が解決して終つた自分は、此數日來に無い、心安い熟睡を遂げた。頭を曲げ手足を縮め海老の如き状態に困臥しながら、猶氣安く心地爽かに眠り得た。數日來の苦惱は跡形も無く消え去つた。爲に體内新たな活動力を得た如くに思はれたのである。
實際の状況はと見れば、僅に人畜の生命を保ち得たのに過ぎないのであるが、敵の襲撃が飽くまで深酷を極めて居るから、自分の反抗心も極度に奮興せぬ譯にゆかないのであらう、何處までも奮鬪せねばならぬ決心が自然的に強固となつて、大災害を哀嘆してる暇がない爲であらう、人間も無事だ牛も無事だよしと云つた樣な、爽快な氣分で朝まで熟睡した。
家《うち》の※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66、212−13]《とり》が鳴く、家《うち》の※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66、212−13]《とり》が鳴く、といふ子供の聲が耳に入つて眼
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