《にぶん》して寝に就く事になった。幼ないもの共は茶室へ寝るのを非常に悦んだ。そうして間もなく無心に眠ってしまった。二人の姉共と彼らの母とは、この気味の悪い雨の夜に別れ別れに寝るのは心細いというて、雨を冒《おか》し水を渡って茶室へやって来た。
それでも、これだけの事で済んでくれればありがたいが、明日はどうなる事か……取片づけに掛ってから幾たびも幾たびもいい合うた事を又も繰返すのであった。あとに残った子供たちに呼び立てられて、母娘《おやこ》は寂しい影を夜の雨に没《ぼっ》して去った。
遂にその夜も豪雨は降りとおした。実に二夜《ふたよ》と一日、三十六時間の豪雨はいかなる結果を来《きた》すべきか。翌日は晃々と日が照った。水は少しずつ増しているけれど、牛の足へもまだ水はつかなかった。避難の二席《にせき》にもまだ五、六寸の余裕はあった。新聞紙は諸方面の水害と今後の警戒すべきを特報したけれど、天気になったという事が、非常にわれらを気強く思わせる。よし河の水が増して来たところで、どうにか凌《しの》ぎのつかぬ事は無かろうなどと考えつつ、懊悩の頭も大いに軽くなった。
平和に渇《かつ》した頭は、とうてい
前へ
次へ
全29ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 左千夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング