とがおりおりありまして、あああれはつれあいをとられたのだなどいうことがすぐ分ります。感心なものでございます」
 この話を聞いておとよも省作も涙の出でんばかりに感じたが、主が席を去るとおとよは堪《たま》りかね、省作と自分とのこの先に苦労の多かるべきをいい出《い》でて嘆息する。お千代も省作に向って、
「省さんも御承知ではありましょうが、斎藤の一条から父はたいへんおとよさんを憎んで、いまだに充分お心が解けないもんですから、それはそれはおとよさんの苦労心配は一通りの事ではなかったのです。今だって父の機嫌《きげん》がなおってはいないです。おとよさんもこんなに痩《や》せっちゃったんですから、かわいそうで見ていられないから、うちと相談してね、今日の事をたくらんだんです。随分あぶない話ですが、あんまりおとよさんがかわいそうですから、それですから省さん今夜は二人でよく相談してね、こうということをきめてください。おまえさんら二人の相談がこうときまれば、うちでも父へなんとか話のしようがあるというんですから、ねい省さん」
 省作も話下手《はなしべた》な口でこういった。
「お千代さん、いろいろ御親切に心配してく
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