に働いた。この晩兄はいつもより酒を過ごしてる。
「省作、今夜はお前も一杯やれい。おらこれでもお前に同情してるど、ウム人間はな、どんな事があっても元気をおとしちゃいけない、なんでも人間の事は元気一つのもんだよ」
「兄《にい》さん、これでわたしだって元気があります」
「アハヽヽヽヽヽそうか、よし一杯つげ」
 省作も今日は例の穏やかな顔に活気がみちてるのだ。二つ三つ兄と杯を交換して、曇りのない笑いを湛《たた》えている。兄は省作の顔を見つめていたが、突然、
「省作、お前はな、おとよさんと一緒になると決心してしまえ」
 省作も兄の口からこの意外な言を聞いて、ちょっと返答に窮した。兄は語を進めて、
「こう言い出すからにゃおれも骨を折るつもりだど、ウン世間がやかましい……そんな事かまうもんか。おッ母さんもおきつも大反対だがな、隣の前が悪いとか、深田に対してはずかしいとかいうが、おれが思うにゃそれは足もとの遠慮というものだ。な、お前がこれから深田よりさらに財産のある所へ養子にいったところで、それだけでお前の仕合せを保証することはできないだろう。よせよせ、婿にゆくなんどいうばかな考えはよせ。はま公、今一
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