た。お松は襷をはずして母に改った挨拶をしてから、なつかしい目でにっこり笑いながら「坊さんきまりがわるいの」と云って自分を抱いてくれた。自分はお松はなつかしいけれど、まだ知らなかったお松の母が居るから直ぐにお松にあまえられなかった。母はお松の母と話をしてる。お松の母は母を囲炉裏端へ連れて行った。其内にお松は自分をおぶって外へ出た。菓子屋で菓子を買ってくれた。赤い色や青い色のついてる飴《あめ》の棒を両手に五本ずつ買ってくれた。お松は幾度も顔を振向けて背に居る自分に話をした。其度に自分の頬がお松の鬢《びん》の毛や頬へさわるのであった。お松はわざと我頬を自分の頬へ摺《す》りつけようとするらしかった。
お松が自分をおぶって、囲炉裏端へ上った時に母とお松の母は、生薑《しょうが》の赤漬と白砂糖で茶を飲んで居った。お松は「今夜坊さんはねえやの処へ泊ってください」と頻りに云ってる。自分は点頭して得心の意を示した。母は自分の顔を見て危《あやぶ》む風で「おまえ泊れるかい夜半時分に泣出しちゃ困るよ」と笑ってる。お松は自分が何と云うかと思うらしく自分の顔色を見てる。
「泊れるでしょう」
お松はこう云って熱心
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