《かぶ》りにして筒袖の袢天《はんてん》を着ていた。紫の半襟の間から白い胸が少し見えた。姉は色が大へん白かった。自分が姉を見上げた時に、姉の後に襷《たすき》を掛けた守《も》りのお松が、草箒《くさぼうき》とごみとりとを両手に持ったまま、立ってて姉の肩先から自分を見下《みおろ》して居た。自分は姉の可愛がってくれるのも嬉しかったけれど、守りのお松もなつかしかった。で姉の顔を見上げた目で直ぐお松の顔も見た。お松は艶《つや》のよくない曇ったような白い顔で、少し面長な、やさしい女であった。いつもかすかに笑う其目つきが忘れられなくなつかしかった。お松もとると十六になるのだと姉が云って聞かせた。お松は其時只かすかに笑って自分のどこかを見てるようで口は聞かなかった。
 朝飯をたべて自分が近所へ遊びに出ようとすると、お松はあわてて後から付いてきて、下駄を出してくれ、足袋の紐《ひも》を結び直してくれ、緩んだへこ帯を締直してくれ、そうして自分がめんどうがって出ようとするのを、猶《なお》抑えて居って鼻をかんでくれた。
 お松は其時もあまり口はきかなかった。自分はお松の手を離れて、庭先へ駈け出してから、一寸《ちょっ
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