守の家
伊藤左千夫
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)何歳《いくつ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)五十|許《ばか》り
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ](明治四十五年二月)
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実際は自分が何歳《いくつ》の時の事であったか、自分でそれを覚えて居たのではなかった。自分が四つの年の暮であったということは、後に母や姉から聞いての記憶であるらしい。
煤掃《すすは》きも済み餅搗《もちつ》きも終えて、家の中も庭のまわりも広々と綺麗《きれい》になったのが、気も浮立つ程嬉しかった。
「もう三つ寝ると正月だよ、正月が来ると坊やは五つになるのよ、えいこったろう……木っぱのような餅たべて……油のような酒飲んで……」
姉は自分を喜ばせようとするような調子にそれを唄って、少しかがみ腰に笑顔で自分の顔を見るのであった。自分は訳もなく嬉しかった。姉は其頃《そのころ》何んでも二十二三であった。まだ児供《こども》がなく自分を大へんに可愛がってくれたのだ。自分が姉を見上げた時に姉は白地の手拭を姉さん冠
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