間の家らしい気分がする。お前はほんとに楽しみだろうね。あんなかわいいのをふたりもつれて遊びあるいてさ」
「いや姉さんふたりきりならえいがね、六人も七人もときては、楽しみも楽しみだが、厄介《やっかい》も厄介ですぜ」
 姉はそんな言には耳もかさず、つくづくと子どもたちの駆けまわるのに見入って、
「子どもってまァほんとにかわいいものね、子どものうれしがって遊ぶのを見てるときばかり、所帯《しょたい》の苦労もわが身の老いぼけたのも、まったく忘れてしまうから、なんでも子どものあるのがいちばんからだの薬になると思うよ。けっして厄介だなどと思うもんでない」
「まったく姉さんのいうことがほんとうです、そりゃそうと孫はどうしました」
「あァ秋蚕が終《お》えると帰ってくるつもり。こりゃまァ話ばかりしててもどもなんね。お前まァ着物でも脱《ぬ》いだいよ。お……婆やも帰った、家《うち》でも帰ったようだ」
 いずれ話はしみじみとしてさすがに、親身《しんみ》の情である。蚕棚の側から、どしんどしん足音さしつつ、兄も出てきた。臍《へそ》も見えるばかりに前も合わない着物で、布袋《ほてい》然たる無恰好《ぶかっこう》な人が改ま
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