お父さん。なんというお花」
「うんまるい赤いのが千日草。そっちのが浦島草」
子どもたちは花がうれしくて物もたべたがらない。ふたりは互いに花を見せ合って楽しんでいる。
「菓子もいらない。そんなにこの花がえいのかい。田舎《いなか》の子どもと違って、東京の子どもは別だわな」
「なにおんなじさ。ずいぶん家ではあばれるのさ」
やがて子どもらはまた出てしまう。年はとっても精神はそれほどには変わらない。姉はただもうなつかしさが目にあふれてみえる。平生はずいぶん出来不出来《できふでき》のある人で、気むつかしい人だが、こうなると何もかもない。
「くるならくると一言いうてよこせば何とかしようもあったに。ほんとにしようがないなこれでは。養蚕さえやられねば、まさかこんなでもないだが。まァこのざまを見てくっだいま」
「何のしようがいるもんですか。多分忙しいんだろうから、実は今夜も泊まらずに、すぐ片貝へと思ったけれど、それもあんまりかと思ってね……」
「そうともまた、いくら忙しいたって、一晩も話さないでどうするかい。……きょうはまたなんというえい日だろうか。子どもたちがあァして庭に騒いで遊んでると、ようよう人
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