曇っていたのである。
子どもたちは何を見つけたかしきりにおもしろがって笑い興じている。その笑い声は真にはればれしくいきいきとして、何ともいいようなく愉快そうな声である。そうしてその声はたしかに人を闇黒より呼び返す声である。予は実に子どもたちの歓呼の叫びに蘇生《そせい》して、わずかに心の落ちつきを得たとき、姉は茶をこしらえて出てきた。茶受けは予の先に持参した菓子と、胡瓜《きゅうり》の味噌漬け雷干《かみなりぼし》の砂糖漬けであった。予が好きだということを知っての姉の用意らしい。
「よくよく何もなくてただほんの喉《のど》しめしだよ。子どもらはどうしたろ。とうもろこしをとってみたらまだ早くてね」
姉はいそいそとして縁から子どもたちを呼び迎える。ふたりは草花を一|束《たば》ずつ持って上がってくる。
「そんなに花をたくさんとっちゃいかんじゃないか」
「えいやね、東京では花だってかってにゃとれないだろう。いくらとってもえいよ、とればあとからいくらでも生《は》えるから。たァちゃんにあァちゃんだったっけね。ううん九つに十……はァそんなになるかい」
「お前たちその花の名を知ってるかい」
「知らない……
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