のわが家は雪にとじこもった冬の心持ちがする。兄は依然として大酒を飲み、のっそりぽんとした顔をして、いつも変わらずそれほどに年寄りじみないが、姉のおとろえようは驚くばかり、まるでしわくちゃな老婆になってしまってる。
予はしばらく背を柱に寄せて考えるともなく、種々に思いが動く。姉の老衰《ろうすい》を見るにつけ、自然みずからをかえりみると、心細さがひしひしと身に迫りくる。
「わたしが十六の年にこの家へ来たその秋にお前が生まれた。それで赤ん坊のときから手にかけたせいか、兄弟の中でも、お前がいちばんなつかしい」
姉はいつでも[#「いつでも」は底本では「いっでも」]そういって予に物語った。その姉がもはやあのとおり年寄りになったのに、この一月までも達者でおられた父さえ今は永劫《えいごう》にいなくなられた。こう思いくると予はにわかに取り残されものになったかのごとく、いやにわが身のさびしみをおぼえる。ついきのうまでも、まだまだとのみ先を頼むの念は強かったに、今はわが生の余喘《よぜん》も先の見えるような気がしてならない。
予はもう泣きたくなった。思いきり声を立てて泣いてみようかと思う。予の眼はとうに
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