たっけ」
手拭を頭に巻きつけ筒袖姿《つつそですがた》の、顔はしわだらけに手もやせ細ってる姉は、無い力を出して、ざくりざくり桑を大切《おおぎ》りに切ってる。薄暗い[#「薄暗い」は底本では「簿暗い」]蚕棚《かいこだな》の側で、なつかしい人なだけあわれはわけても深い。表半分雨戸をしめ家の中は乱雑、座を占める席もないほどである。
「秋蚕《あきご》ですか、たくさん飼ったんですか」
「あァに少しばかりさ。こんなに年をとっててよせばよかったに、隣でも向こうでもやるというもんだから、つい欲が出てね。あたってみたところがいくらにもなりゃしないが、それでもいくらか楽しみになるから……」
「なァにできるならやるがえいさ。じっとしていたんじゃ、だいいち体《からだ》のためにもよくないから」
「そんなつもりでやるにやっても、あんまり骨が折れるとばかばかしくてねィ。せっかく来てくれてもこのさまではねィ、妾《わたし》ゃまた盆にくるだろうと思ってました」
「百姓家《ひゃくしょうや》だものこのさまでけっこうですよ。何も心配することはありゃしないさ」
「そりゃそうだけれどねィ」
姉妹はいつの間に庭へ降りたか、千日草浦島
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