去年
伊藤左千夫

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)心裏《しんり》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)平生|懇意《こんい》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「非難する」は底本では「非離する」]
−−

        一

 君は僕を誤解している。たしかに君は僕の大部分を解していてくれない。こんどのお手紙も、その友情は身にしみてありがたく拝読した。君が僕に対する切実な友情を露ほども疑わないにもかかわらず、君が僕を解しておらぬのは事実だ。こういうからとて、僕は君に対しまたこんどのお手紙に対し、けっして不平などあっていうのではないのだ。君をわかりの悪い人と思うていうのでもないのだ。
 僕は考えた。
 君と僕とは、境遇の差があまりにはなはだしいから、とうてい互いにあい解するということはできぬものらしい。君のごとき境遇にある人の目から見て、僕のごとき者の内面は観察も想像およぶはずのものであるまい。いかな明敏な人でも、君と僕だけ境遇が違っては、互いに心裏《しんり》をくまなくあい解するなどいうことはついに不可能事
次へ
全36ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 左千夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング