しめつた大氣にしたしみ
青青とした五時頃の靄を感じ
この地球がより深みへ廻り來り
よりやはらかな氣流に塗りかへられて
大きいエネルギーをたつぷりあびてゐる時に
空氣の笛をそつとふいて
どこまでも村村をつきぬけよう。
去年と今年
去年の四月には
きよらかな血をもつた船乘りのやうに
僕はこの麥と木と夜の村を愛しながら
いちにち飽きる事もなく喜んでゐたのに
今年はまるで日の沒《い》りのやうに氣も重く
怨めしげな花と大氣の思ひにのりうつつて
ほのかな天の明暗のみ眺めながら
青ざめた一本の樅の木のやうに
自分のつらい孤獨な影を藪の上におとして
よびかへす事も出來ない昨日の艶情を
幽かな幻の色に描き
どうしてかうも夕暮の水の花を慕つてゐるのだらう。
青胡瓜
昧爽《よあけ》の胡瓜をもいでくれ、從妹よ
風に洗はれる三日月のやうな眼つきをして
僕はその青い小さな錨を畑でたべよう
何よりもうれしく霧をかんじ、露にしみ
僕の目ざめを感じてゐて
朝燒けの光線に吹きつらぬかれ
僕の眺めの中に
鮮紅色の季節の娘のやうに扮裝して
朝の胡瓜をもいで來てくれ。
大根の花
おしやれ娘よ、おしやれな
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