きをつたへては見えなくなる
僕はそのうしろと前と色のよい空間へ
自分の持つてゐる曇りも闇をもとばしてしまひ
眞晝のうすい月の色香をかんじ
雜木のむれを吹き透す生氣にふれ
何のあてもなくほんのりと自分を失くしてしまふ
僕はその色とも水ともつかない薫りを愛し
このうつくしい響きのなかから
生の幽麗なる姿に似たものをかんじはじめる
おぼろげなるそこら中の色と形とに
ふしぎな情愛の日のふくらみをふらせ
無名の生氣の大きい蒸氣に
いつともなく沈みながら。
[#地から1字上げ](武州折本村にて)

  四月の影

四月の霽《は》れたる午前のそよかぜは
村村のひそやかなる青紫の影を吹き
滴るばかりに細かな花の盛りを
ひかりと熱とのあきらかな炎に染めなし
もの皆うつとりとしめりのある影をたのしみ
かろき枝枝は大氣の匂ひを拂ひては地に塗る
かかるもの影を歩めるものこそ
いともやさしき靜かさにみたされ
はれやかなる雫のごとく玲瓏として
おのが心のうちに祕められたる
もつとも小さき、もつとも無心なる
新らしき情怨を花火のごとく身に焚いて
そのひそやかなる朝を尊ぶであらう。

  めぐりあひ

ふかい年月のあ
前へ 次へ
全36ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 惣之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング