われわれの惱みと切ない腐りを裁《き》りさり
雨で洗つた枝枝のやうに勢ひをもりかへし
又われわれの生む事の出來ない自然の健康慾を
しばらくでも身に飾り波うたせ
時間が畫く未來の美しい一角へすすみ入り
一歩一歩生の色どりを深め得るにちがひない。
薄暮
いろやかに、にほやかに、ものの濕りと匂ひを
ひろがりゆく影のインク色にひたして
人はしづかに深みにかへる情熱を
大きい眼をもつてあたりいちめんに發射する
庭のむらさきなす紫荊の枝枝に
ひときは村のはてなる黒い檜の影へ
あきらかなりし空中のほむらを塗り
うすうすとにじみ來る透明なる「時」をかかげ
竹のあたりへおちる小さい響きを感じながら
もつとも色のない小さいオキザリスの花を
そのまつ毛のまつ先に捉へようとして
彼は音もなく煙のやうにひとり椅子から立ちあがる。
魔法使
僕はみる
この大きいつやつやした朝紅《あさやけ》のなかの
色どりふかいものの重たさかるやかさの上に
又はいきいきしたる美しい熱のむらがりと
匂やかな明るい日のあらはれのうちに
闇からでてすつかり洗ひ清められたばかりの花のほのほから
青青として枝枝等のかげを
すき
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