びく雜木の濤を
ほんのりと吹きとほらせる風のいろは
午前の黄金とあたらしい影をはつきりとはなち
花もつ梢の片面をうすもも色に照らして
青みゆく影の動き多き西邊の丘の方へと
そのいきながらの羽とほのほをなびかせ
ひそかにちる花片と青い昆蟲の空中へ
あざやかなる寂莫の色をあふりいで
やさしきものの熱情をより明らかに
發散する露と雫の日を映し
杉の匂ひのしみる、よりよき鐘の音のする陰へ
あかい鳥の巣や雲を焚く青空をあたへ
熱い豐滿な正午の明暗をふりしきらせつ。
この非情なる寂寥こそ
村の高みへ思ひもえつつ歩み出ながら
あたりの大氣と景觀にみつしりとうちしめり
曇り來れる四月の色と影をいつぱいにして
はるかな村村の山から來る風と寂寥とに
思ふさまただひとり吹かれぬく事は
目に見える感じをとらへる以上に強い
このあたりから吹き起る名もない寂寥こそ
西風がもてる地球のかすかな薫りであり
又われわれの思ひと官能を洗ひきよめる
生の極彩色の空中からの
神神しい情熱のもつとも深い幽麗な影と
かるい愛情にぬれて村村へくる
水よりも直接でうつくしい生の瀧である
われわれはこの力と清きつめたさのために
前へ
次へ
全36ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 惣之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング