みてゐる立派な思想や裝飾を
晝の感情の黄金時計で見つめたり
一千年の幽かな大氣の幕をあげたり下したりして
しんしんとしたものの靈と靜かな形を
あをあをと身に印刷するやうに見てあるく

われわれは槇や檜のうすら青い華やかさに
しんめりと濡れたり日に染まるだけそまつて
中世紀の都の人人のふかい考へや信仰にふれ
青艶な黄金と黒との佛像ををがみ
建物の幽麗な古いかをりに悲しくされて
いかにこの古い都が美しかつたか
光華印刷のやうにあたらしかつたか
そのかすかな情熱の夕映を
今木の間や苔のある岩の上にちらちらと
おひつめながらはてしなき大樹のほとりをさまよふ

一千年のあきらかな日と夜の色どり
あかるい鮮麗な大氣の中のうつりかはり
ただ感ずる事によつてしづしづと
われわれをとりまきかがやかしめる思想のやうに
名も知れぬ昔からの木の花と
草やら影でいつぱいの崖も十字路もあばらやも
ひつそりと寂寞の谿にかくしてゐる村
われわれは戀人をつれ生の寶玉をつれ
その古い無形の都に影とともにすすみ入り
春の日の砂金と常盤木の群青をもつて一本の歩行線を畫く

われわれの歡喜はうすい水や花でいつぱいである
地中に
前へ 次へ
全36ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 惣之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング