埋もれ死滅した都の幽かな燈花にうつり
春の日のふかい大きい奧底の
きらびやかなる闇の力や時間の奇蹟にとざされて
青銅の室内へはひつてゆくやうに
美しい肖像や器具や
あるひは武器と衣裳と大きい寺院の
さらに重たい星色の墓や英雄の名でいつぱいの
このふしぎな村のもうろうたる鬼氣にふれて

そしてわれわれは又そこの夕暮をはなれる
からからといふ生の時計の馬車をかつて
村から村へ村から港へとかへりながら
もう一度日沒の下にある村村をかへり見て
われわれのふかい心の印象畫を
いつそうしつとりとした幽愁の名に染めながら。
[#地から1字上げ](鎌倉圓覺寺所感)

  ここに輯めた詩に就いて

ここに輯めた詩は、こと/″\く最近の作で「華やかな散歩」と「荒野の娘」をかいてから後の、私の變化を語る一つの素描風な短章といつたやうな意味の小曲集である。私は過去の作を再び單行本にすることを好まないと同時に、未來に於て美しく出發せんとする若き人人につれて、たえず私の現在の眞只中から飛躍しよう出帆しようとする者である。私は私の固定を恐れ、定評を嫌ふ。さういふ意味でこの習作的短章も、「荒野の娘」から、この秋に出版
前へ 次へ
全36ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 惣之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング