をつけて
新らしいおまへを祭り得る力を得たこの腕を
どんなにか匂ひのよい谿の空中へとうちふつて
自分の狂氣をうたひ、無智や本能をうたひ
おまへに僕の精神のいつさいの機能を
何の苦もなく捧げてしまはうと努力したらう。

  春日遊行

おおわれわれのはれやかな
喜びにもえてゐる車がそこに到着したとき
古い千年も昔の都であつた山の村村は
どんなにか春の日に色づいて
うすうすとした水蒸氣にぬれ
いろいろな木の花や蒼ざめた廢道や寺寺を
大きな日時計のやうに
影と形をもつて地の上に畫いてゐてくれたらう

われわれは杉の匂ひにしめつてゐる大きい寺へ
わかい櫻がほんのりとふかれてゐる四ツ辻へ
時ならぬ色や音をこぼしながら
あたらしい影と日を塗つたり亂してゆくけれど
しづかに埋もれてゐる都の記念物や
土壁や石や青青とした建物や寺寺も
あざやかに濕つてゐる風にうつり
ほのかな空氣の中にあらはれてくる

われわれは見る事より思ふ事によつて
さまざまな美しいかがやきを認めたり
古い時間の青い花を見つけ
重たい明暗にしづむ寺院の深さや
樓船のやうな古い木の山門を
われわれの感覺の觸冠でこすつたり
その奧底に沁
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