どへし折つては
ふしぎに重たい黄金の旗を引きあげるやうに
ほのかな灌木のなかへおまへをさそひこみ
藤色と黒の衣裳がうすら赤い天城特有の
よい匂ひのする石楠花の花に引つかかつて
さわさわとかがやき日の色にあやめもわかず
朝の紅がおまへの美しい肉にしみ出るまで
どんなに元氣よく歩いたらう
あのおびただしい爽かな空色とうす黄の花が
まつ毛をいつぱいに照る天氣に魅入られ
おまへと僕をほんのりとすき透してしまつて
うす紫の影のある涼しい歡喜が
天然の色のまま名もない木木の花の房を
まるで生きた祭りの
鮮かな情慾のやうに染めたつけ
おまへはあをあをとした孔雀のやうに
僕をいつぱいに愛してゐてくれて
惜しげもなくそのふくよかな羽や瞳を
この山中の枝枝と日の影の方へちらばしてくれるし
僕はこの重たい春の日のつやつやした情熱を
濕りのあるふかい思想のやうにあたため
そのまま滿ちあふれるおまへの呼吸を
つよい肉情の楯のみで
どうして防いでゐられよう
僕はどうして山がこのやうに花と大氣を背負うて
うつとりとしてゐるかをうすうす感じながら
おまへがよりかかつた石楠花の木の花のやうに
全身にすつかり風と熱と
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