ほつそりした姿が
妙に竹の匂ひがするやうな
むしろ竹よりも朽ちる百合の匂ひがして
一瞬間だけは
清凄といつたやうな風が吹くやうに思へるよ。

  女の幼き息子に

幼き息子よ
その清らかな眼つきの水平線に
私はいつも眞白な帆のやうに現はれよう
おまへのための南風のやうな若い母を
どんなに私が愛すればとて
その小さい視神經を明るくして
六月の山脈を見るやうに
はればれとこの私を感じておくれ
私はおまへの生の燈臺である母とならんで
おまへのまつ毛にもつとも樂しい灯をつけてあげられるやうに
私の心靈を海へ放つて清めて來ようから。

  燦爛たる若者

海の扇よ、吹けよ、鳴れよ
こんなにもあかるく、氣高く
ロマンチックな、ロマンチックな
あざやかな燈臺の新夜の色をもつて
つよい檣のやうに僕を煽いでくれたおまへに
今沛然たる大氣と清らかな風との
放電的な濤の聲をもつてふれよう、ふれよう
こんなにも高い防波壁の上で
川から來た若い白鷺のやうに
七月の北風をあびせ、あびせ
星が光環をつくるやうに發情するおまへを
僕は航海家の貪慾をかがやかして
船乘りがもつ愛情を理解して貰ひ
或は僕の生涯をあきらかに
前へ 次へ
全36ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 惣之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング