おまへの感じに生かしたやうな
清艶なわびしさを
どんなに私は身に沁ませて
ささやかな一人ぼつちの影をたわめ
枝深い濕つた紫陽花の花に
つめたい精神をあたへては心をこきまぜ
遠いあの朝の目覺めを感じてゐるであらう。

  華麗な哀愁

ちつとも、清らかでも、純粹でもない
田舍の藪のなかを喜んで歩く戀人よ
狐の葉ぼたんや道端の晝がほが
青艶で、水水してゐて、たまらなく簡素なのに
色の絹と金屬をまきつけて、白粉の光らない
華麗で、ほの青い、そして黄色がかつた戀人よ
あまりに自然色のまま、日影もあらはに
どうしても暗く、悲しく、見れば氣も醒めて
美しいと思つた時を怨むやうな
ただ今日の散歩の後の追憶のみをたのしみに
奇異なほこりと刺激をこきまぜて
私はゆたり、ゆたりとお伴をしよう。

  清婉

影をふかめ、ふかめ、
颯としたうす青い闇で
こんなにも幽かな色艶をした空氣が
ひつそりとつめたく流れてゐるだらう
杉から出て、竹の中へくると
又こまやかで、いつそうさやかな晝ではないか
どこかに雪いろさへあるだらう
その顏が淡紅色をよび戻したではないか
しかしかうして見ると、又
その藍と銀と黒づくめの
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