ついてゐる神祕な生のいろを
感じまい、思ふまい。

  二つの繪

青藍色の朝となつたではないか
もう私はこの清洒な庭の菖蒲の中から
昆蟲のやうにぬけ出て行かうよ
艶やかだつた夜の繪は
ほんのりおまへの額に消えかかり
うすい涙のいろをもつた陰影が
ものうい晝の月影を映してゐるではないか
別れよう、別れよう
私はこれから又片田舍へ行つて
もう一つの冷たい戀人のやうな
あの寂寞や幽情を訪れようから。

  さやかなる日影

遠くはなれて起き伏しする日は
ちかく在る日にましてさやかなる情趣をかんじ
ほんのりもゆる柚の花の木陰など歩みては
美しかりし夜を思ひ、香氣ある風に濕り
晝の月影の空氣に吹かれちるを眺めつ
ほの青き金色とうす闇にもゆる葉かげの
午後のさびしき椅子を引きよせて
うつとりとした情愛をかすかに清め
六月の庭の影をひとりたのしみながら
何にもまして夏の風をいつぱいにつけて
海からでも來たやうな色どりを引き
夕暮いろの感情にぬれて來る人を
ただあてもなく待つてゐる。

  情怨

たとへば青紫いろの朝霧が
水にうつり、思想に照り
このぐるり[#「ぐるり」に傍点]の景觀をうつすりと

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