岳にて)
新麗なる眞晝
すさまじきまでに、清らかなる
岩角や深山木のほとりに
みつしりと濕つて咲盡くせる
雪割草や處女袴の新らしき花蕚を
僕は靜かな恐怖の智慧のやうに身にかんじる
これほど雪と西風に洗はれてゐる嶽の
するどい自然色のうちから
あんなにもひそひそと、うすい煙のやうに
僕の官能に色をつけてうつり映える
あのあまりに愛らしい花冠や花序のつらなりが
ものすごいほど清純で、ひびきもなく
喜びに似てさらにふかい
あたらしい無情の溌溂さを光らしてゐるから。
感
ふかい大きい夜は水と霧にしめり
燦燦たる私の感覺圖を
星くさい石のつめたい匂ひでいつぱいにする
宿屋中の人人はさながら幽靈のやうに
あちこちと燈火の紅のなかをながれ
もうろうとした白い鳥のやうにも見える
ただ私には水音がしみ入り、しみ入り
霧がもてるうすい自然感は人にすりより
白い皿をはひ、浴衣にふれ
金屬のやうなひびきでものいふ女らを
ちらちらする水と燈の中にうかべて
涙ぐましき宵の冷情を發散せしめる。
[#地から1字上げ](遠刈田温泉にて)
七日原
日の沒《い》りの陰と雪の嶽から
三十度の傾斜をもつ
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