星をかかげて
七月の白鷺の群れを放ち、はなち
ルビー色の火を焚けよ
はるかに障子のみ眞白な小家。

  旅行

旅をしよう、爽涼たる青年時代に
水星からでも降つて來た人のやうに
ちらちらする宵の情炎をおびて
怒濤のすぐ傍に坐つたり
古寺の幽繪のほとりを歩いたり
青ざめた博物館を通りぬけて
ただ二人のほかは星と町と村との
清らかな自然色の廣場があるばかりで
千鳥と千鳥がとぶやうに
春と秋との愛情をむすび、羽をそろへ
新らしい快樂の壺が破れるまで
影繪の人物のやうに旅をしよう。

  青根への道

馬上に、一人ゆれる椅子をかけ
空中にゆられ、風にゆられ
霧は眞青な落葉松の
矢ばねから矢ばねへはねかへり
幽かな空をわたり、つめたい木陰をつたひ
私は馬の廻るままに山をめぐる
得もいはれぬ靜かな朝のはれゆく愁ひよ
ゆたりゆたりと谿の上をそひ
もも色の花處女袴に眼をはなち
深みゆく山の影多き心を
霧いろに青む外套に蔽ひつつ。

  雪と瀧

空氣に色をつけよ
僕は谿の空中をへだてて
雪の山嶽の裂け目から
ぼうぼうと落下する瀧の花火を見つめる
こんなにも雪白な、生きた寫眞を
鮮かな感覺をもつて切斷し
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