に、ああ古い鐘の音よ
私にかすかな、かすかな
大昔のやうな信仰への感覺が
うすうすと目ざめて來たならば
どんなに今の私は美しからうに。
美しき冷感
障子をからからと開け放ち
さて水無月の灯を膝のほとりに引きよせて
宵の色こめたる野の面にふれよ
走る灯のはてはもうろうたる水となり
しつとりと藍いろの闇は獨座の裾をめぐる
あたらしき家の香を喜べ、私よ
傾けるオリオン星は肩のほとりに火花を與へ
ほのぼのもゆる庭のヂキタリスの影をはしる
おおこのひろびろとして、身にしみわたる
うつくしき我が宵の冷感!
農婦について
眞夏の帆のまへに
頬には朝紅《あさやけ》、額には夕映をまきつけてゐる女達!
そしてゆつたりと歩み、麥をあふり
黒い眼には輪が廻つてゐる夜の焔たち!
車前草の傲り
荒れはてたる砂原をあるく者は
寂寥たる言葉を、或は夕映色の眼鏡を
何等の魅力をももたぬ車前草にさへふりそそぐ
活然として傲れる車前草!
青い小さな鰐か紐のやうな若い花の髯
または花を彗星のやうにつけた老いたる花
くるくると空中に遊ぶ葉のむらがりに
快樂をそそぎ、風吹く午後の鬱血をそそぎ
一個の味氣な
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