るのではないか
この蘆と水とのまんまんたる
片田舍の眺めを思へば
うつうつたる情怨のこもれる
又はしんめりと照り漂ふ夕の色の
青い遊星として寂寥ばかりの
星の時代が地球にもあつたであらう
その清らかな空中の旅よ

  風力計

單檣も、双檣も、四本檣も
噴水のやうに氣中に立てよ
若やかな夏の禾本科植物よ
われわれの野に照る感覺は
青くて圓い天の弧のなかに
ぐるり[#「ぐるり」に傍点]の地平線の圓盤上に
あちこちとすくすく立てる
みどりの風力計を發見して
われわれの散歩に恰度よい
場所と風位を空中に自記し
ありあり時を讀得る有難さ。

  莢

もめんづる[#「もめんづる」に傍点]や草合歡の
すきとほつた船を見よ
豆の橈手が十二人も乘りこんで
蕚《がく》の船首を空中にたて
大氣の濤に小さい造船所をのこして
六月のあかるい世界へ進水しよう、しようと。

  行進曲

蒿雀《あをじ》が鳴いて
水がしたたり
風が艶をぬり、雲が翳りを掃くのは
われわれのさびしい精神を
空中へ、より高みへおくる
あたらしい行進曲でなくて何か
その笛やシンバルを愛さずして
どうして野原を歩き廻れようか。

  紋章
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