前中の青い孤獨が
靜かな汝の眉の上に
畫のやうに懸かるところに立つて。

  智慧の輪

見わたすかぎりの雜草世界!
なんとすずやかな線や旗ではないか
匂ひと色とをはつらつと展べて
水の世界から陸と氣の世界をつづり
こまかな網翅類をよびあつめ
その清らかな智慧の輪を
空中につらね引まはし
どうしてそれをほどいたらよいのか
優しい祕密の花文字を
るゐるゐと私のまへに盛上げてくれるではないか。

  柚の花

幽蒼な庭の時計のほとりから
風致にしたたり、吹きかかり
精緻な、それでゐて品のよい思想がふる
白い鷺がうす曇りの水をとぶやうな

家の中のしづかな精神へ
正午の匂ひをあびせ、あびせ
蔭多い微妙なところから
すつきりとして青い、さらに白い
こまかな、つよい思想がちる。

  千鳥の帆走

空氣の笛を吹けよ、若者ら
爽涼たる寶石いろの砂原を
あちこちと帆走する千鳥を喜びながら
あの色のよい形と聲の
朝の半影を身にうつし、影を射つて
海青いろの波濤と岩との
このわびしい清らかな場所を
遊星の羽のやうに耀やかしめよ。

  水星

いまは地球がひつそりとして
あだかも水星の霧と曇りの眞下にあ
前へ 次へ
全36ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 惣之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング