るほどではなかった。幼年組は毎日水辺へいって魚をつった。そのためにモコウの台所には魚のない日はなかった。
だがここにこまったのは物置きのないことであった。どこか岩壁《がんぺき》のあいだに適当《てきとう》な物置き庫《ぐら》がなかろうかと富士男は四、五人とともに、北方の森のなかをさがしまわった、するととつぜん異様《いよう》のさけびがいんいんたる木の間にきこえた。
「なんだろう」
一同はすぐ銃口《じゅうこう》をむけて身がまえた、そのなかに富士男とドノバンはまっすぐに声のほうをさして進んだ。と見ると、そこはかつてサービスが木の枝をむすんでかくしておいた、穴のほとりであった。
声はまさしく穴の底である。縦横《じゅうおう》にわたした枝はくずれおちて、なんとも知らぬ動物が、おそろしい音を立ててくるいまわっている。
「なんだろう」
ドノバンがいうまもなく、富士男は声高くよんだ。
「フハン、フハン、ここへこい」
主人の声をきいたフハンは、矢のごとく走ってきた、かれは主人の顔をちょっとながめて、すぐ穴のはしから底を見おろした、とたんに電光《でんこう》のごとく穴のなかへおどりこんだ。
「みんなこい
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