景をながめていた富士男は、弟の次郎にいった。
「おまえも行って、みんなといっしょに遊ばないか」
「ぼくはいやだ」
 と次郎はいった。
「なぜだ、おまえはとうから、なんとなくふさぎこんでるが、病気なのか」
「いやなんでもない」
 富士男はふしんそうに頭をかしげたが、いまここでかれこれいうべきでないと思いかえして、一同とともにいかだを出た。
 もういかだの荷物は運ばれた。山田の洞《ほら》は前日とすこしもかわらなかった、一同はまず寝具《しんぐ》を運んで洞のなかにあんばいし、サクラ号食堂の大テーブルを洞の中央にすえこんだ。このまに仏国少年ガーネットは幼年組をさしずして、なべかま食器類を洞内《どうない》に運ばした。一方には黒人モコウが早くも洞の外がわの岩壁《がんぺき》の下に石をつんでかまどをつくり、スープのなべをかけ、小鳥のくしをやいたりした。小鳥はとちゅうでドノバンらが岸にのぼって猟獲《りょうかく》したもので、伊孫《イーソン》とドールは小鳥やきの用をおおせつかったが、やけしだいにちょいちょい失敬するので、なかなかはかどらない。
 七時には一同洞内の大テーブルをかこんだ。テーブルの上には湯気《ゆ
前へ 次へ
全254ページ中57ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング