ちょうぜん》として、もはや残骸《ざんがい》のみのサクラ号をかえりみていった。
「船はなくなった、ぼくらはぼくらの運命を大自然に一任するよりほかはない、しかしぼくらはできるだけの手段をとらねばならぬ、それには万一ここを通航する船に、ぼくらの存在を知らしむるために、岩壁《がんぺき》の上に一本の信号旗を立てておきたいと思うがどうだろう」
「賛成《さんせい》賛成」
一同はただちに旗《はた》を立てた、それらのことがおわってから一同は、ふたたびいかだに集まった、潮はまだ早い、満潮《まんちょう》は八時半である、それまで待たねばならなかった。
「きょうは何日だ」
と富士男はいった。
「五月五日」
とだれやらが答えた。
「そうだ、五月五日、南半球の五月は北半球の十一月にあたる、それだけの差はあるが、しかし五月五日は非常にさいさきのよい日なのだ」
「どういうわけか」
とゴルドンはにこにこしていった。
「ぼくの故郷《こきょう》のじまんと誤解《ごかい》してくれたもうな、五月五日は日本においては少年の最大祝日なのだ。それはちょうど、欧米におけるクリスマスににたものだ、日本全国|津々浦々《つつうらうら》に
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