えた。十四人の少年が、かれをこのサクラ号の指揮者《しきしゃ》となしたのも、これがためである。モコウはおさないときに船のボーイであったので、これも船のことにはなれている。
 ふたりは前檣《ぜんしょう》の下へきて、その破損《はそん》の個所《かしょ》をあらためてみると、帆は上方のなわが断《き》れているが、下のほうだけがさいわいに、帆桁《ほげた》にむすびついてあった。ふたりは一生けんめいに、上辺《じょうへん》のなわを切りはなした。帆は風にまかせて半空《はんくう》にひるがえった。ふたりはようやくそれをつかんで、下から四、五尺までの高さに帆桁《ほげた》をおろし、帆の上端を甲板《かんぱん》にむすびつけた。これで船は風に対する抵抗力《ていこうりょく》が減《げん》じ、動揺《どうよう》もいくぶんか減ずるようになった。
 ふたりがこの仕事をおわるあいだ、ずいぶん長い時間を要した。大きな波は、いくどもいくどもふたりをおそうた。ふたりは帆綱《ほづな》をしっかりとにぎりながら、危難《きなん》をさけた。
 仕事がおわってふたりはハンドルのところへ帰ると、階段の口があいて、そこからまっ黒な髪《かみ》をして、まるまると
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