ぜんと内部は広くなり、二十尺四方の広間《ひろま》となり、地上にはかわいた砂をしきつめてあった。
 室の右方に一きゃくのテーブルがあり、テーブルの上に土製の水さしや、大きな貝がらがあった、貝がらはさらに用いられたものらしい、赤くさびたナイフ、つり針、すずのコップもある。壁ぎわの木箱には、衣服の布《ぬの》がぼろぼろになってすこしばかりのこり、奥のほうの寝台にはわらがしいてあり、木製のろうそく立てもある。
 富士男は寝台の上の古毛布《ふるもうふ》をつえの先でおこしてみたが、そこにはなにもなかった。
 四人は洞穴を検査《けんさ》して外へ出ると、フハンはまたもや狂気のごとく走った、それについて川をくだると、大きなぶなの木の下に、一|堆《たい》の白骨があった。これこそ洞穴の主人の遺骸《いがい》であろう。
 四人はだまって白骨をみつめた。ああ白骨! これはなんぴとの果《は》てであるか?
 破船の水夫が、この地に漂着《ひょうちゃく》して救いを待つうちに、病死したのであろうか、かれが洞中《どうちゅう》にたくわえた器具は、木船から持ってきたのであろうか、ただしは、自分がつくったのであろうか、それはともかく
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