ぼって、とうとうすがたが見えなくなった。
とやがて、ただならぬフハンのほゆる声がおこった。
「ゆこう、なにかあるんだろう」
富士男がまっさきに走った。
「気をつけろよ、短銃《たんじゅう》をポケットから出しておくれ」
一同は岩壁《がんぺき》をまわってゆくと、ドノバンはそこで一個のすきを拾った。
「やあ、ふしぎだなあ」
あたりを見まわすと、そのへんに耕作《こうさく》のあとがある、いもは野生に変じて、一面に地の上をはうている。
「野菜《やさい》をつくって生きていたのだ」
こう思うまもなく、フハンはまたしても二つ三つさけび声をあげた。一同はフハンのあとについてゆくと、荊棘《けいきょく》路《みち》をふさぎ、野草が一面においしげて、なにものも見ることができない。富士男は草をはらいはらいして、なかをのぞいてみると、そこにうす暗い洞穴《ほらあな》の入り口を見た。
「待てよ」
富士男は勇み立つ三人をとめて、かれ草をあつめてそれに火をともし、洞穴へさしいれた、そうして空気に異状《いじょう》がないのを見て、一同は洞穴のなかへはいった。洞穴の口は高さ五尺、はば二尺にすぎないが、はいってみると、かつ
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