く》した湾に少年たちが名づけた名称《めいしょう》である。
「あれはなんだろう」
 イルコックがとつぜん右のほうを指さしてさけんだ。そこには大きな石が、石垣《いしがき》のごとく積まれて、しかもそのなかばはくずれていた。
「この石垣は、人手でもって積んだものにちがいない、して見ると、ここに人が住んでいたと思わなきゃならん」
「それはそうだ、たしかに舟をつないだところだ」
 反対ずきのドノバンも賛成した。そうして草のあいだにちらばっている、木ぎれを指さした。一つの木ぎれは、たぶん、舟のキールであったものだろう、そのはしに、一つの鉄のくさりがついていた。
「だれかがここへきたことがある」
 四人は思わず顔を見あわした、このぼうぼうたる無人の境《さかい》に、住まったものははたしてだれか。四人はいまにも、ぼうぼうたる乱髪《らんぱつ》のやせさらばえた男が、草のあいだから顔を出すような気がして、あたりを見まわした。
 ひとりとしてものもいうものはない、四人はだまって想像《そうぞう》にふけった。木ぎれは蘚苔《せんたい》にくさって、鉄環《てつわ》は赤くさびている、風雨|幾星霜《いくせいそう》、この舟に乗っ
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