いだ猛獣《もうじゅう》毒蛇《どくじゃ》のおそれがある、蕃人《ばんじん》襲来《しゅうらい》のおそれもある。
しばしの別れだが、使命は重かつ大、どこでどんな災殃《さいおう》にあうかもしれぬのだ。ゆくものも暗然《あんぜん》たり、とどまるものも暗然たり、天には一点の雲もなく、南半球の群星はまめをまいたように、さんぜんとかがやいている。そのなかにとくに目をひくは、南半球においてのみあおぎみることのできる、南十字星である。
「どうかぶじに帰ってくれ」
「おみやげたのむぞ」
一同は十字星の前にひざまずいて、勇士の好運をいのった。
翌朝七時、富士男、ドノバン、イルコック、サービスの四人は、ゴルドンのすすめによって、猟犬フハンをしたがえて出発した。
浜にそうて岩壁《がんぺき》をよじ、川をさかのぼりて森にいる。ひいらぎバーベリ等の極寒地方《ごくかんちほう》に生ずる灌木《かんぼく》は、いやがうえに密生して、荊棘《けいきょく》路《みち》をふさいでは、うさぎの足もいれまじく、腐草《ふそう》山《やま》をなしては、しかのすねも没すべく思われた。
どうかすると少年らは、高草のためにまったくすがたを見失うこと
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