例のドノバンは、まず反対的態度《はんたいてきたいど》でいった。富士男は微笑しながら、
「ここには、かしわ、かば、まつ、ひのき、ぶなの木などが非常に多い、これらの樹木は太平洋中の赤道国《せきどうこく》には、ぜったい見ることができない樹木だ」
「それじゃどこだというのか」
「まつ、ひのきのほかの木がみな、落葉したり、紅葉したりしてるところを見ると、ニュージーランドよりも、もっと南のほうの高緯度《こういど》だろうと思う」
「もしそうだとすると」とゴルドンは、双方《そうほう》の争《あらそ》いをなだめながら、
「冬になるとひじょうに寒くなるだろう、いまは三月|中旬《ちゅうじゅん》だから、四月の下旬までは好天気がつづくだろうが、五月(北半球の十一月)以後になると、どんなに気候が変わるかもしらん。そうすると、とてもぐずぐずしていられない、おそくとも六週間以内にはこの地を去るとか、ただしは冬ごもりをするかを、きめなければならん」
 いかにもゴルドンの心配は、むりからぬことである。さすがのドノバンも、だまってしまった。
 いまは、一日のゆうよすべきばあいでない、富士男は毎日、丘にのぼって、四方を展望《て
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