をおりて、森のほうをさして歩きだした。
 森のかなたには小さな川がある。もしこの地に人が住んでいるなら、川口に舟の一そうや二そうは見えべきはずだが、いっこうそれらしきものも見えない。ふたりがだんだん森をわけてゆくと、樹木は太古《たいこ》のかげこまやかに、落ち葉は高くつみかさなったまま、ふたりのひざを没するばかりにくさっている。右を見ても左を見ても、人かげがない、寂々寥々《せきせきりょうりょう》、まれに飛びすぐるは、名もなき小鳥だけである。
 森をいでて川にそうてゆくと、びょうびょうたる平原である、これではまったく無人島にちがいない、むろん住むべき家があるべきはずがない。
「やっぱり船にとまることにしよう」
 ふたりは船へ帰って、一同にこのことをかたり、それから急に、修繕《しゅうぜん》にとりかかった。船はキールをくだかれ、そのうえに船体ががっくりと傾斜《けいしゃ》したものの、しかし風雨をふせぐには十分であった。まず縄梯子《なわばしご》を右のふなばたにかけたので、幼年組は先をあらそうて梯子をおり、ひさしぶりで、陸地をふむうれしさに、貝を拾ったり、海草《かいそう》を集めたりして、のどかな唄《
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