こんだ、とすぐまたひとりの少年があらわれた。
「富士男君、ぼくにもすこしてつだわしてくれ」
「おうバクスター、心配することはないよ、ここはぼくら四人で十分だから、きみは幼年たちを看護《かんご》してくれたまえ」
仏国《ふつこく》少年バクスターはだまって階段をおりた。嵐《あらし》は刻《こく》一|刻《こく》にその勢いをたくましゅうした。船の名はサクラ号である。ちょうどさくらの花びらのように船はいま波のしぶきにきえなんとしている。とものマストは二日まえに吹き折られて、その根元《ねもと》だけが四|尺《しゃく》ばかり、甲板《かんぱん》にのこっている、たのむはただ前方のマストだけである、しかもこのマストの運命は眼前《がんぜん》にせまっている。
海がしずかなときには、ガラスのようにたいらな波上《はじょう》を、いっぱいに帆を張って走るほど、愉快《ゆかい》なものはない。だがへいそに船をたすける帆は、あらしのときにはこれほど有害なものはない、帆にうける風のために船がくつがえるのである。
だが、十六歳を頭《かしら》にした十五人の少年の力では、帆をまきおろすことはとうていできない。見る見るマストは満帆《ま
前へ
次へ
全254ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング