ない、ここに三人がいる、船底《ふなぞこ》にはさらに十一人の少年がいる、同士《どうし》のためにはけっして心配そうな顔を見せてはならぬのだ。
かれは大きな責任《せきにん》を感ずるとともに、勇気がますます加わった。
このとき、船室に通ずる階段口のふたがぱっとあいて、二人の少年の顔があらわれた。同時に一頭のいぬがまっさきにとびだしてきた。
「どうしてきた」と富士男は声をかけた。
「富士男君、船がしずむんじゃない?」
十一、二歳の支那少年|善金《ゼンキン》はおずおずしながらいった。
「だいじょうぶだ、安心して船室にねていたまえ」
「でもなんだかこわい」
といまひとりの支那《しな》少年|伊孫《イーソン》がいった。
「だまって眼をつぶってねていたまえ、なんでもないんだから」
このときモコウはさけんだ。
「やあ、大きなやつがきましたぜ」
というまもなく、船より数十倍もある大きな波が、とものほうをゆすぶってすぎた。ふたりの支那少年は声をたててさけんだ。
「だから船室へかえれというに、きかないのか」
富士男はしかるようにいった、善金《ゼンキン》と伊孫《イーソン》はふたたび階段のふたの下へひっ
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