つある、四人の少年の顔が見える。
 みよしに近く立っているのは、日本の少年|大和富士男《やまとふじお》である。そのつぎにあるは英国少年ゴルドンで、そのつぎは米国少年ドノバンで、最後に帆綱《ほづな》をにぎっているのは、黒人モコウである。
 富士男は十五歳、ゴルドンは十六歳、ドノバンは十五歳、モコウは十四歳である。
 とつぜん大きな波は、黒雲をかすめて百千の猛獣《もうじゅう》の群《む》れのごとく、おしよせてきた。
「きたぞ、気をつけい」
 富士男はさけんだ。
「さあこい、なんでもこい」
 とゴルドンは身がまえた。同時に百トンの二本マストのヨットは、さかしまにあおりたてられた。
「だいじょうぶか、ドノバン」
 富士男は暗《やみ》のなかをすかして見ながらいった。
「だいじょうぶだ」
 ドノバンの声である。
「モコウ! どうした」
「だいじょうぶですぼっちゃん」
 モコウは帆綱《ほづな》にぶらさがりながらいった。
「もうすこしだ、がまんしろ」
 富士男はこういった、だがかれは、じっさいどれだけがまんすれば、この嵐がやむのかが、わからなかった。わからなくても戦《たたか》わねばならぬ、自分ひとりでは
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